イヌリン。メディカルハーブを学んでいる方ならダンディライオンがメジャーかと思います。ダンディライオンは春先に集中的に摂取して体質改善を進める春季解毒療法に欠かせないハーブとして用いられます。
デトックス (解毒作用)が顕著でありかつ繁殖力が強いため、インドのアーユルヴェーダやアラビアのユナニ医学、TCM(中国伝統医学)や北米の先住民医学などに幅広く用いられてきました。
日本ではおよそ40年前に妊婦さんが飲む「ノンカフェインのヘルシーコーヒー」として自然・健康志向が強い米国西海岸から紹介された歴史があります。
さらに歴史をさかのぼれば戦後のコーヒー不足の時代に「代用コーヒー」として民間に広まったこともあり、時代の変化がハーブの評価を変えるよい例。
それでは今回の主役、菊芋 についです。
学名:Helianthus tuberosus
他のイモ類とは構造が異なる。デンプンをほとんど含まず水溶性多糖類であるイヌリンを多量に含有する。イヌリンは難消化性で低カロリー、腸内細菌叢の改善、血糖値の上昇抑制等の機能性が明らかにされている。カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、鉄、マンガン、銅、亜鉛などのミネラルを含有。とくにカリウムがたっぷりと含まれる。
イヌリン
名前はキク科のイヌラ Inula heleniumの根から抽出されたことによる。イヌリンは果糖にブドウ糖が2.100以上も連なった構造をした水溶性食物繊維。イヌリンはヒトの消化酵素では分解されず大腸に届いて腸内細菌の栄養源に。その結果、ビフィズス菌などの有用菌が優勢となり腸内環境を改善。また、カルシウムなどのミネラルの腸管からの吸収を高めることが知られている。さらに腸内細菌による代謝の過程で短鎖脂肪酸が生成。最近の研究では酪酸などの短鎖脂肪酸は腸のバリア機能を向上させることでアレルギーや関節リウマチ、糖尿病などを招くリーキーガットシンドローム (腸粘膜浸漏症候群 )の改善にも役立つことが明らかになっている。イヌリンはたいへん有用なプレバイオティクス。全身の健康にさまざまな形で寄与。多様な健康機能は世界中で研究されておりその有効性はエビデンスによって裏付けられた確かなものである。
イヌリンの臨床研究
健常男性12名(イタリア人平均23.3歳)を対象にイヌリン9gを含有するシリアルを4週間摂取した結果、血清総コレステロールおよび中性脂肪が減少し腸内環境が改善。また便秘症の高齢女性35名(ドイツ人平均76.4歳対象群17名)を対象とした二重盲検無作為化比較試験においてイヌリン1日20gを8日間摂取し、さらに1日40gを19日目まで摂取したところ腸内環境と便通が改善。
時間生物学を利用した機能性食品の開発(イヌリンの人試験)
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9711/9711_tokushu_5.pdf
菊芋を粉末にした場合の摂取タイミングは朝食前摂取が特に有効か。1日の血糖値の変動。セカンドミール効果を持つ。(朝食の内容が昼食や夕食後の血糖値上昇に影響する現象)
こちらは余談となります。
菊芋 のイヌリン繋がりで自身が所属している日本メディカルハーブ協会で学習したダンディライオンの含有成分を添付しておきます。
2003年に編集された ESCOP(植物療法欧州科学協同組合)モノグラフでは、ダンディライオンの主要成分として①オイデスマノリド型(eudesmanolid type)セスキテルペンラクトン化合物、②炭水化物(特にイヌリン)、③トリテルペン化合物(Taraxasterol)、④γ-ブチロラクトン配糖体(Taraxacoside)、⑤ミネラル (特にカリウムとカルシウム )などを記載しています。①はタラキサシンと命名されていた苦味質で Tetrahydroridentin Bと Taraxacolide glucosideなどです。②のイヌリンは春期は2%ほどですが秋期は40%にも達します。③の Taraxasterolは5環性トリテルペンアルコールです。④は p-ヒドロキシフェニル酢酸誘導体です。⑤のカリウムは1.8.2.6%も含有します。①③④の構造式を図1に示します。
この他にダンディライオンには .β-シトステロールやスティグマステロールなどのフィトステロールやカフェ酸などのフェノール酸などを含みます。
ダンディライオンの多様な成分は強肝・利胆(肝での胆汁分泌促進と胆での胆汁排出促進)・緩下・利尿といった作用により解毒のプロセスを促進。さらには腸管のバリア機能の向上と腸内環境の改善は体内への異物の侵入を防ぐと共に一度腸内に捨てた物質の再吸収(腸肝循環 )を防ぎます。こうした作用機序によりダンディライオンは消化不良(特に脂質)や便秘、アレルギーや関節リウマチ、肝障害や糖尿病予防に用いられます。
日本メディカルハーブ協会
参考資料(日本メディカルハーブ協会理事長及び母校グリーンフラスコ代表、林真一郎先生執筆記事)