医学博士・塩田清二先生プロフィール
視覚、味覚、聴覚などと並び、非常に身近な感覚でありながら、科学的にまだ謎が多く残る分野――それが「嗅覚」。重度の認知症患者の症状を改善したり、がんの終末期の疼痛を和らげる〈香り〉。これまでの西洋医学では太刀打ちできなかった病状の治療方法として、いま注目されているメディカルアロマセラピーを、嗅覚のメカニズムや最先端の臨床例からわかりやすく解き明かす。いい香りを「嗅ぐ」だけで、重度の認知症患者の症状が改善されたり、がんによる疼痛がやわらぐ―“香り”の成分は、私たちの脳や体内に、どのように吸収され、作用しているのか。西洋医学では太刀打ちできなかった「治りにくく予防しにくい」疾患の画期的な治療方法として、いま注目されているメディカルアロマセラピーを、嗅覚のメカニズムや最新の臨床例からわかりやすく解き明かす。
※愛犬ネロリの名前の由来はこちらの記事に纏めてあります
https://yamaserieko.cookpad-blog.jp/articles/554891
香りはなぜ脳に効くのか アロマセラピーと先端医療著者である、星薬科大学教授・医学博士塩田清二先生への様々な取材記事を要約しました。
【世界でも先進的な研究分析を行う日本の学会】
近年、精油の作用は、医療現場や生活の質の向上面で役に立つと期待されている。「欧米では医療機関の約8割がアロマセラピー、すなわち香りの力を、治療やメンタルケアに活用しています」と語るのは日本アロマセラピー学会理事長も務めた終任理事の塩田清二先生。医療機関での採用は日本でも普及しつつある。アロマ文化は後発ながら、日本では医療従事者の多くが香りの研究に携わり、世界でも珍しい規模とレベルの高さで、メカニズムの解明に成果を上げている。
【アロマセラピーへの「誤解」】
日本でアロマセラピーといえば、美容や癒しを目的とした女性の趣味というイメージが強い。しかし、これを医療現場で活用しようという動きが広がっている。背景には、基礎・臨床研究を通じて、香り成分(精油の芳香物質)の効果を科学的に実証できるようになってきたためだ。
そもそもアロマセラピーとは、植物由来の精油を使用することで自然治癒力を高め、心身の疾病予防や治療を行う療法を指す。意外にも、医療行為としての歴史は古く、1920年代にフランスの科学者が火傷の治療にラベンダー精油を使用したことにはじまり、その後、1960年頃から欧州各国に波及していった。
アロマセラピーは大きく分けて、医療的な見地から発達したフランス系の「メディカル・アロマセラピー」と、美容的側面の強い英国系の「エステティック・アロマセラピー」がある。フランスやベルギーでは、アロマセラピーは長らく医療行為として認められてきた。そのため、精油は医薬品として扱われ、薬局でしか販売することができない。対して、エステティックサロンなどの美容分野から広まった日本では、精油は雑貨扱いである。一般的に、アロマセラピーはまだまだリラクゼーションの1つと認識されており、安価な合成品も、高価な100%天然物も、同じ『精油』として一括りに売られている状態。この問題の克服が課題である。
https://www.sc-engei.co.jp/gardeningbeginner/aroma_therapy/aroma_definition.html
【脳に作用する芳香療法、医療現場で導入拡大】
現在研究が進んでいるのが、芳香療法としてのアロマセラピーだ。匂いの刺激は、鼻腔の奥にある嗅覚器へ伝わり、匂いを識別する嗅細胞、そして脳へと伝わる。脳の深いところに直接伝わることで、自律神経や内分泌系、感情、行動に働きかけることが明らかになってきた。
脳に直接作用する匂いの働きが医学的に解明されるにつれ、西洋医学では太刀打ちできなかった“治りにくく予防しにくい疾患”の画期的な治療方法として、医療現場でもアロマセラピーの導入が進みつつある。日本では1997年に医師や看護師、薬剤師らで組織する日本アロマセラピー学会が設立され、一気に研究が加速。
たとえば産婦人科では、妊婦の不安やストレス、陣痛といった痛みの緩和にアロマセラピーを活用する医療機関が増えている。痛みとは、傷ついた患部からの信号。脳が痛みを感じる物質や痛みを増す物質を産生するため、痛みの元は脳にある。そのため、終末期のがん患者へのケアとしても、アロマセラピーは有効。手足をオイルでマッサージすれば、香りとスキンシップの相乗効果で、薬だけでは解決できない全身の苦痛や不安・不眠に対処することができる。
認知症の予防も注目される分野だ。横浜市内のある介護老人保健施設では、20人の認知症患者に芳香療法を行ったところ、物忘れなどの認知機能障害が和らいだり、表情や行動に活気が見られるようになったとの報告がある。特に、柑橘系の香りは、脳の前頭葉を刺激し、交感神経を活性化させる効果があるため、うつ病の治療などにも応用可能だ。
※匂いによるアルツハイマー型認知症の治療研究とその展開 (特集 医療の現場における香りの機能)
Recent advances in Aromatherapy for dementia / journal of aroma science technology and safety 15(2), 103-107, 2014 フレグランスジャーナル社
アロマセラピーでにおいの刺激を与え続ければ、脳の衰えた部分を活性化し、認知機能を向上させる可能性が高いと考えられている
https://www.sc-engei.co.jp/gardeningbeginner/aroma_therapy/lemongrass_effect.html
芳香療法(アロマセラピー)が積極的に取り入れられている臨床分野の一つが産婦人科
https://www.sc-engei.co.jp/gardeningbeginner/aroma_therapy/female_diseases_treatment.html
婦人科とともに芳香療法(アロマセラピー)の効果が期待されている臨床分野の一つが、緩和医療
https://www.sc-engei.co.jp/gardeningbeginner/aroma_therapy/pain_relief.html
【ネロリ精油について】
塗布で光老化対策を叶えるデータが。低濃度でも肌内部の一重項酸素の消去能をもつことがわかっている。一重項酸素とは活性酸素のひとつ。紫外線を浴びると肌深部には活性酸素が増え、細胞の整列が乱れる。土台が崩れることで起きるのがシワやたるみ。これが光老化。光老化に関する活性酸素の約7割を一重項酸素が占める。すなわち一重項酸素を消去する機能は光老化対策になる。
その他女性ホルモン様作用も。ネロリだけがもつネロリドールという炭化水素が、ホルモンと似た構造をもつため、肌に塗布して血流にのせることで、更年期の不調緩和に繋がる。(ホルモン依存性のがん、乳がん、子宮がん、前立腺がんの方と妊婦は塗布を避ける。低濃度の香りはOK)
精油を塗るのと嗅ぐのとでは働き方が異なる。特にネロリはまったく違った特性を持つ。塗布では一重項酸素消去、ホルモン様作用を発揮。香りを嗅ぐと広義の〝鎮静〞に効果が。塗布の狙いは肌への浸透や、その下にある血流に成分をのせること。一方で嗅ぐ狙いは、嗅神経から脳の嗅球へ、そして脳の深い部分にある視床下部や大脳辺縁系に作用させること。脳への働きかけで自律神経や内分泌系、感情に影響を与える。ネロリに多く含まれるリナロールと酢酸リナリルは、ともに〝鎮静〞の成分。精神的な不眠は40〜50代の女性に多い症状。リナロールも酢酸リナリルもそうした不眠の改善へ作用することが分かってきた。さらに2018年学会発表のひとつに酢酸リナリルを嗅ぐことで、血中のコルチゾール(ストレスを感じたときに増えるホルモン)の量が低下することが分かっている。
リナロールや酢酸リナリルのほかにも 〝鎮静〞に通じる数々の構成要素をもつネロリ。嗅ぐことで、科学的にリラックスを誘い、心を穏やかに導いてくれる精油と言える。成分の働きは解明されつつあるが、個々の成分の働き以上の力をもつのが精油の魅力。精油はそれぞれ数十から数百の有機化合物によって成り立っており、複雑に影響し合って作用する。とはいえ、塗布でも芳香でも人体へ取り込まれるのは微量ですから、比較的容易に西洋医学と組み合わせられるのが利点。
※以上、星薬科大学教授・医学博士 塩田清二先生のお話はここまで。
おすすめ書籍「アロマセラピー学」
監修:医学博士・塩田清二
仕様:B5判並製208頁
ISBN:978-4-906873-74-6
発行日:2017/5/15
「医療につながる」アロマセラピー
昨年度資格を取得をした、長島司の森の香り・里の香りコンシェルジュ(精油化学:ヒノキ、スギ、青森ヒバ=ヒノキアスナロ、トドマツ、アカエゾマツ、コウヤマキ、クロモジ、ニオイコブシ、クスノキ=カンファー樟、芳樟=リナロール樟、ユズ、八朔とその他の香り成分、ミカンとその他の香り成分、シークワーサーミカンとその他の香り成分、ラベンダー、シソ、ハッカ、月桃、ハマナス、キンモクセイ、水仙、ロウバイ、イグサ、調香他)講義などでもお世話になった長島司先生も執筆されています。
【森の香り・里の香りコンシェルジュ卒業課題クリアと2020年オンライン講義纏め】
https://yamaserieko.cookpad-blog.jp/articles/554726
解説
日本において精油を使ったアロマセラピーの医療方面への導入はかなり遅れていた。その結果、アロマセラピーについての間違った知識や情報が世の中にあふれ、接触性皮膚炎などの健康被害が生じて大きな社会問題となった。それらの健康被害の諸問題についての対応とともに、精油の製造方法、成分分析や機能評価などについては1990年末くらいから国内において本格的に始まった。その後、アロマセラピー学会会員はじめ統合医療に従事する基礎・臨床研究者の20年以上の努力により、アロマセラピーが医療の分野で正しく安全かつ副作用などなく臨床応用されるまでになってきた。
一般の人たちが目にするアロマセラピーについての本や雑誌は多数あるものの、本格的に医療につながるアロマセラピーの書籍は、今までほとんど出版されていないといってよい。そこで本書では、日本アロマセラピー学会で活動している学会会員が中心となって、できる限りわかりやすく医療と関連するアロマセラピーの諸事項についてまとめることを目指した。いわば医療用アロマセラピーの入門書である。
内容としては、アロマセラピーの歴史から始まり、医療現場でのアロマセラピーの使われ方の紹介、日常生活におけるアロマセラピーの使用用途やその効能などが解説されている。また、実際にアロマセラピーを使う場合に留意すべき事柄や精油の見分け方や使用方法、副作用などについても実際の経験に基づき丁寧に解説されている。医療従事者やアロマセラピーを学ぶ学生にはもちろん、一般の人々にも広くアロマセラピーを理解してもらうのに適した一冊となっている。
序文
星薬科大学先端生命科学研究所特任教授・日本アロマセラピー学会終身理事・日本ガーデンセラピー協会会長 塩田清二
総論
第1節 芳香、精油、アロマセラピーとは
ティアラ21女性クリニック 本間請子
第2節 アロマセラピーの歴史と将来の展望について
星薬科大学総合基礎薬学教育研究部門 分子生理学 竹之谷文子
星薬科大学先端生命科学研究所 神保太樹・平林敬浩
第3節 医療現場におけるアロマセラピーの現状と可能性
鳥居泌尿器科・内科 鳥居真一郎
第4節 看護現場におけるアロマセラピーの現状と今後の展望
聖加国際大学基礎看護学/看護技術准教授 大久保暢子
国家公務員共済組合連合会虎の門病院看護師 鈴木彩加
第5節 福祉・介護現場におけるアロマセラピーの現状と可能性
メディカルアロマ&リフレ Tpri代表 所澤いづみ
第6節 日常生活におけるアロマセラピーとその可能性
北千里 前田クリニック 前田和久
社会学博士・栄養士・料理研究家 中山桜甫
使用論
はじめに 精油の正しい使い方
ティアラ21女性クリニック 本間請子
第1節 精油の製造法とよい選び方、正しい扱い方
SHIDAライフサイエンス株式会社代表取締役副社長・一般ガーデンセラピー協会理事 熊本大学客員准教授 川人紫
第2節 精油の種類、芳香の嗅ぎ方、ブレンドオイルの作り方
セダファーム代表 長島司
第3節 芳香物質の体内動態
〜芳香物質はどのようにして体内に入るのか〜
星薬科大学先端生命科学研究所特任教授・日本アロマセラピー学会終身理事・日本ガーデンセラピー協会会長 塩田清二
第4節 芳香の薬理作用
フローラ薬局代表取締役・昭和大学兼任講師・東京薬科大学客員教授 篠原久仁子
第5節 アロマセラピーにおける副作用
鳥居泌尿器科・内科 鳥居真一郎
第6節 アロマセラピーの特性と留意事項
ティアラ21女性クリニック 本間請子執筆者
【ネロリの歴史】
〈世界一の香水の町・南仏グラース〉
16 〜18 世紀頃のイタリアやフランスのプロヴァンス地方では柑橘系の植物から香料が作られ始めた。特にルイ 14 世(仏 :Louis X I V ,1638 ~ 1715 年)時代、産業育成政策として花やハーブの精油を原料とした香水産業が活発に行われた。18世紀のパリ上流階級の人々が豪華絢爛な服に酔いしれていた時代、婦人間で流行ったのがなめし皮の手袋。しかし問題は手袋を取ったあともずっと残る程強烈な「動物臭」。
南フランスのオートプロヴァンスにあるグラースという小さな町は元々なめし皮を生産し手袋職人たちが多く住む町だった。動物臭の残る手袋の臭さに苦情が殺到したため香水で動物臭を消すことを考え、ネロリをふんだんに使いこの問題を解決。「香り付きの手袋」 の売り上げはさらに伸びた。
南フランスのトゥールーズでペスト患者から金品を盗む泥棒たちは、ローズマリー、タイム、セージ、ラベンダー、ミントなどのハーブを酢に漬け込んだ殺菌効果の高いハーブビネガーを全身に塗っていたのでペストに罹らなかったという。逮捕時、秘密のレシピを教えて死刑を免れたという逸話が残る。また香料を扱う商人たちは伝染病にかからなかったということが知られている。
【ネロリはアンナ・マリアが愛した香り】
17世紀の中頃に栄えたイタリアのネロラ公国の王妃アンナ・マリアがオレンジの花の香りをとても愛していたことに由来する。数ある精油の中でも実在した女性にまつわる名をもつのは「ネロリ」ただひとつ。
アンナ・マリアは1675年、フラヴィオ・オルシーニ公との結婚を機に花の都パリを離れて異国の地イタリアのネロラへと移り住んだ。オルシーニ公は政治や戦争よりも科学研究に熱心な人物で、ネロラ城の周りに自生するビターオレンジの花から精油を抽出することに没頭。その高貴な香りをアンナ・マリアへの愛の贈り物としたと伝えられている。美しいネロラ妃が革手袋につけたビターオレンジの花の香りは当時の社交界で大流行となり、それを身につけている人の名にちなんで「neroli」と呼ばれるようになった。彼女はこの精油を香水として使用し、バスタブにビターオレンジの花を浮かべて沐浴。彼女が歩いた後は、えもいわれぬ香気が漂っていたとか。
Neroli
学名 Citrus aurantium
科名 ミカン科
抽出部位 花
抽出方法 水蒸気蒸留法、溶剤抽出法
ノート ミドルノート
香り
グリーンフローラル香気のリナロール、ローズ様フローラルノートのゲラニオール、シトロネロールに、セスキテルペン3級アルコールのネロリドールの安定感のあるフローラルノートが調和。更に窒素化合物のアンスラニル酸メチルが少量含まれ(ネロリのトップに感じる香り)花の香りに深みを与えている。
生理・心理的作用
抗うつ、抗不安、鎮痙(安心、回復、復活)